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2019年11月18日 酸っぱい思い出。 [カメラ]

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Nikon D850 AF-S 60mm


ビネガーシンドロームである。
それは、古いフィルムが、特に富士フイルムのネオパンのそれが強い酸の匂いとともに、溶け、縮み、膜がはがれ、像を失ってしまう現象だ。

少し前のこと、大学時代の親しかった友人がこの世を去った。突然の悲報に毎年大学祭の時期に合わせた同期有志の集まりが今年は偲ぶ会となってしまった。その思い出の共有に学生時代の写真を用意したいと思った。フォトジェニックでもあった彼女は、一時期それなりの頻度で被写体であったから、しまい込まれた古いフィルムの中に、若き日が封じ込められているはずだ。

デジタルカメラが普及した、つい最近まで、つまり相対的にね、写真は理論的データではなく物理的フィルムの量が即ち思い出の数だ。写真学科の学生ということも相まった大量のフィルムが収まったいくつかの段ボール箱を開けると強い酸の匂いが鼻を突いた。ビネガーシンドロームだ。

なにしろ学生時代は、100ft.缶からラボで貰ってきたパトローネにリロードしたネオパンSSSがメインのフィルムだった。つまり、生来の性格から全く整理されていない思い出のほとんどがスリーブから抜き出すことすら困難な状態なのである。ライトビュワーに透かしなんとかネガを探し、今やソフトが対応しない故に巨大な文鎮に化したニコンのフィルムスキャナーのフィルムフォルダーで挟み込んで、D850のデジタイズ機能を使って複写した。当時でもそこまで大きく伸ばさなかったA2サイズのプリントに数十年前の彼女の笑顔がよみがえった。

写真は素敵だ。